中国における社会と人の関係性の変化<デジタル化による流れから読み解く>

前回のコラム(当社コラム:中国におけるECユーザーの消費心理)ではCtoCマーケットのTaobaoが厳格な評価システムによって、消費者との信頼と関係を構築しているという話をさせて頂きました。

この話に関しては、中国という市場を知る上で実は非常に大きなヒントが隠されていると思いますので、今回は中国向けの越境ECにおける「ターゲットである中国人」について少し深堀りした話をしたいと思います。

 

◎「プロ」と「アマ」の境界線の薄さ

 

昔から日本人と中国人の違いを語る際に「個人主義」なのか「集団主義」なのかの違いが上げられる事が多いと思います。

近年では組織への帰属意識が高く、いわゆる日本人的な自己犠牲の精神を持つ中国人が増えてきている事は間違いない事ではありますが(特に日本国内にいる中国人はこのような人材が圧倒的に増えてきています)、現実的に社会そのものを見た際「個」がいかに自立をするかが最も重要な事でもあります。

 

つまり日本との大きな傾向の違いとしては、「自分(や、家族を始めとした身内)」がいかに経済的にも精神的にも満たされているかという「個へのフォーカス」であると言えます。

 

ですので、中国ECの世界においてもある時は「消費者」でも、ある時には「バイヤー」に代わり、そしてある時は「セールスマン」になるという、プロとアマの境界線の薄さは圧倒的に中国ならではの現象であると言えます。

 

そもそも組織へ帰属するかどうかは彼らにしてみると手段の1つであり、収入の選択肢を増やす(副業と言える範囲を超えて)のは、ごく一般的な訳です。

 

◎デジタル化によって生まれた新たな関係性

 

そしてこのような「個人主義」をベースとした社会に「デジタル化」が進んだ事で、今の中国では非常に興味深い「個と個の関係性」が生まれ始めています。

 

日本国内でも「民泊」や「配車アプリ」などを始めとしたシェアリングエコノミー分野のデジタルサービスでは、「サービス提供者」と「顧客やクライアント」の相互評価という仕組みは決して珍しい物ではなくなりつつあります。

実際は「Yahoo!オークション」などはかなり昔から相互評価による「信頼の構築」の仕組みが導入されていたので、ある意味では「走り」だったとも言えますが、日本の場合は「サービス提供者」が法人格で「クオリティの高いサービスを提供してくれる」という価値観が前提となっているため、実は親和性が高いとは言い切れない背景があります。

 

当然「食べログ」のように「一定の評点」によって「選択肢から切り捨てる」という行動パターンが産まれているのも事実ではありますが、「プロ」と「アマ」の境界線が薄い中国とはその親和性のレベルが圧倒的に異なってくる訳です。

 

日本の場合、個人から「買ったり」「サービスを受けたり」するのが心配ならば、(これが良いか悪いかは別として)法人を選べば良いだけです。

 

実際に前述のコラムで書いたTaobaoのランク付けに関しては、ユーザーからの評価が主立った軸になっており、「個で稼ぐ」には「きちんとサービスを提供しなければならない」という状況が産まれています。

 

中国は人脈(ストレートに言えばコネ)が非常に重要であると言われていて、これは決して間違った事ではないのですが、逆にこのコネに振り回される事がネガティブに映るようになってきたのもまた事実です。

 

故に、デジタル化による評価のシステムは、前述したようにきちんとしたサービスを提供した人間が勝つという考え方が強まっていく事になってきた訳です。

 

2008年の北京オリンピックを前後として、急速に発展が進んだ北京ではたったの数年間で給与が40%もアップするという異常な経済成長を遂げ、収入がアップした一般人も当たり前のようにタクシーを使用するようになりました。

こうなると組織に属しているタクシードライバーは、放っておいてもお客は拾える上、自分の収入もどんどん上がっていく事になります。結果として乗車拒否などを当たり前に行うようになり、目を疑うようなサービスレベルの低下が起きた時期がありました。

そして、(「個」で稼がなければいけない)白タクの方が、よほどサービスが良いというのは当時の北京在住の仲間内では有名な話でもあります。

 

現在、すでに利用社が4億人を超えるまで拡大した中国の配車アプリの背景にも、「個がきちんとサービスを提供しなければならない」という状況が強まってきた事は言うまでもありません。

 

◎そして産まれた究極のシェアリングエコノミー

 

そして、これらの話の最たる例として、上海のスタートアップが提供している「隣趣(LinQu)」というアプリを挙げようと思います。

このアプリは元々レストランなどの外食のデリバリーを目的に作られた物で、空き時間のある「誰か」にお金を払って、「食事を持ってきてもらう」という物でした。

 

まず利用者はアプリを通じてレストランに注文を行うと、それと同時に近隣にいる宅配登録者に配達を請け負う人の募集がかけられます。この募集に対して、宅配登録者が(基本的には)早い者勝ちで仕事を得た後、そのレストランに出向き、自ら費用を払って食事を受け取って利用者の元に運ぶと言う仕組みになっています。

その間、Alipayを用いて決済費用を預かり状態にしておき、配達が完了した時点で飲食代+配達料の支払いが行われるので、利用者と配達登録者の間では財布を出す事なく全ての決済が安全に、そして確実に行われます。

このやり取りの中で、混雑時には配達料が加算されたり(UBERにも同様の仕組みがあります)、そもそも今回のコラムのテーマである「相互評価の仕組み」によって、そもそも仕事を請け負うかどうか。依頼するかどうかが判断できるようになっているのが特徴であると言えます。

 

現在このアプリは本来のサービスの延長線上で、「ほぼ何でも頼める」ような状況に近づきつつあり、デリバリーだけではなく「レストランや銀行などの待ち時間」に代わりに並んでもらうと言った方面にまで発展してきており、利用者はすでに100万人。サービス提供者登録は4万人を超えると言われています。

 

こういった中国ならではのサービスから「個と個の評価システムによるサービスクオリティの向上」や「プロとアマの境界線をあえて作らない」といった事が見えてきます。

 

デジタル化の流れに伴って、とりあえず適当に相手を騙してお金を儲ける。という考え方では、これからの中国では生き残っていく事が難しい状況に変わってきている訳です。つまり、サービスクオリティが本当に求められる時代であるという事です。

 

そして、中国EC分野であればこんな話もあります。

 

日本ではなかなか見る事のない光景だと思いますが、お相手の購入者希望者が「いち消費者」にも関わらず「これ以上価格を安くしたいのならば、ロットで購入して、あなたが誰かに売ってみたらどうですか?」といった話に展開するという話です。

 

このようにアマをプロに変えてしまう瞬間がどこにでもある社会であるという事こそ、デジタルが新たな「個と社会の関係性」を作り上げていると言えると思います。